FLIR PTQ136 Breachの総評とサーマルカメラが苦手とする環境とは!? その4
こんにちは! スカイアイジャパンの今井です。
3回にわたりFLIR PTQ136 Breachをレビューしてきました。今回は最後の4回目!
これまでの記事はこちら。
その1
その2
その3
でPTQ136入手して一ヶ月、ほぼ毎日なんらかの形で使用してきましたがそのおかげで
- できること・できないこと
- 思っていたことと違うこと
- サーマルカメラの特徴
- 長所と欠点
- 誤解されていること
などがはっきりわかってきました。本記事では、PTQ136の総評のあとにサーマルカメラが苦手としている部分をできる限り状況別で写真ととも紹介することで、読んでいる方の興味のある部分や勘違いを明らかにしていきたいと思います。
この記事では少しマニアックに言及していきますので、サーマルカメラ(熱赤外線カメラ)の購入を検討されている方の参考になればと思います。
- PTQ136の総評
- 個人的に改良しても良いと思う点
- これからサーマルカメラに期待する点、追加して欲しい機能
- サーマルカメラが苦手とする環境と弱点
- サーマルカメラを購入する際に気をつけること-スペック表の見方-
- まとめ
PTQ136の総評
個人的に相当満足しています。確かに期待しすぎていた点はあったもののこれは私の問題ですし、逆にサーマルカメラとして「できない」ということがわかったので変に営業トークで「やれます」ということがなくなったのは助かっています。
個人的に以下をすごく気に入っています。
- 小型
- 軽い
- バッテリーの持続が長い(90分)
- 省電力(リチウム電池1本)
- モバイルバッテリーが外部バッテリーとして使える
- シンプルな機能
- ゴーグルなどに取付けられる
- カッコいい(重要)
- 防水・防塵
というわけでサーマルカメラに私が要求する性能を殆どを満たしています。雨の日に使えないとかそういうのはそもそもサーマルカメラ自体ができないので期待する方がよくない(笑)。
環境調査として、温度表示がなかったのが痛い・・・というのはありますがこれもまあ折込済みなのでヨシとします。
個人的に改良しても良いと思う点
撮影枚数が増えると挙動が遅くなる
スペック上は3,000枚撮れるとされていますが、多分そこまで無理です。というか100枚超えるとキツイ。
何がキツイかというと、その遅さ。
撮影ボタンを押すと「SAVED IMAGE77」と画面に表示されます。これは今本体には77枚撮影したデータがありますよ。今回は77番目ですよ、という意味なんですが50枚超えたあたりから
撮影ボタンを押す→・・・(数秒の間)→「image 77 saved」
とやたら遅くなり、どのタイミングで撮影ができているのかわかりません。ボタンを押した直後なのか、この「image 77 saved」が出た瞬間なのか。
サーマルカメラで撮影した写真データって基本モノクロ表示な上に320×256という解像度だからめちゃくちゃ軽いんですよ。このご時世に大きくても一枚0.04MBとかそれぐらい。iPhoneなんて1枚6MBとかザラですからね。1/150ですよ。
でも、50枚超えると処理能力を超えるのか超スローになります。これはなんとかしてほしい。ただ、このおかけでなぜ内蔵保存領域が2GBしかないのかわかりました(笑)。32GB、64GBにしても処理できないんでしょうね。
100枚以降は撮影枚数の表示が同じ
これまたおいおいという感じなんですが、100枚を超えると全部「image 100 saved」になります。101枚目も、200枚目も同じ。何枚目なのかわからない(笑)。
ボタンが硬い
これはかなりしんどいです。パレットパターンとかって割と頻繁に変えるんですが、そのたびに「はあボタンかてぇなぁ」と思います(笑)。防水機能なのはわかりますがにしても硬すぎだろと。
これからサーマルカメラに期待する点、追加して欲しい機能
ボタンの硬さ
これは本当にどうにかして欲しい。もっとボタンを大型化するとかなんらかの形で対処して欲しいですね。あとは電源ボタン、機能呼び出しボタン、決定ボタンが全て同じなのも紛らわしい。せめて電源ボタンは独立しててもいいと思います。
その点、GoProはよくできてると思います。防水・防塵に関してはPTQ136はGoProの足元にも及びませんが、それでもボタンは押しやすい。
バッテリー残量表示の適当さ
これは致命的です。バッテリーの残量表示は上の画像の様に一般的なイラストで表示されるんですが、半分を下回ったら突然シャットダウンします。右側の「黄色」になってるバッテリー残量表示は滅多にでません(笑)。ほぼ同じ条件で使ってるのにバッテリーの残量表示が出るときもあれば出ないときもあるのはおかしい。
実はこれPTQ136だけでなくサーマルカメラに共通する問題点です。なぜここが放置されているのかよくわかりません。特に法執行機関が使うにしては致命的じゃないのかな、と。
半分なのか、もう切れる直前なのかは大きく違うので個人的には%で表示されるとありがたいです。
解像度
これはいつの時代も、ということで特にPTQ136がどうの、というわけではありませんがぜひ解像度を上げていって欲しいです。いつかはHD画質!
カラーカメラとの二眼にする
FLIRがスマホ用に二眼サーマルカメラを販売しています。↓こういうの。
これに使用されているサーマルカメラの解像度は非常に低く、サーマルカメラとして単体での使用はほぼ不可能と言っていいです。もし単体で使うとすると数メートル先の犬や猫も見つけられないんじゃないかな。
でも実用性はあるんですよ。なぜかと言うとカラー画像のカメラとサーマルカメラの映像を合成することで違和感のない画像として使えるように仕上げているからです。
右の実際のFLIRのオフィシャル画像でも車のアウトラインがわかりますよね?これはカラーカメラで撮った映像にFLIR ONEのサーマルカメラの映像を合成しているからあたかもシャープであるかのように「見える」です。
が、PTQ136のような高性能サーマルカメラでもやはりほしいな、と思うことが多々あります。やはりサーマルカメラには「解像度が低い」というのが常についてまわるので。
いずれも時代が進めば、という話ですがハイテク好きの私としては待ってられません(笑)。
サーマルカメラが苦手とする環境と弱点
- 水やガラス
- 温度差
- 雨の日
この3つが特に苦手です。参考画像とともに紹介していきます。
サーマルカメラ共通の弱点1 水やガラス
サーマルカメラはガラスや水を見通すことはできない
テレビのリモコンなどに使われる「近赤外」と呼ばれている波長域はガラスや水をそれなりに透過するんですが、サーマルカメラが使う赤外線の波長域はガラスを透過することができません。なので、ガラスなどを見ると自分や景色がかろうじて写るだけで反対側をみることはできません。※FLIR A6262scはできるという噂
こんな感じです。これは鏡に写る私を写したものですが、ガラスでも同じ様に写ります。
水も厄介な存在です。特にサーマルカメラで利用される赤外線の波長域は水が吸収しまくるので(吸光といいます)、サーマルカメラとしては映像化する材料がないので「何も見えない」ということになります。これは高知の有名な廃校水族館にてウミガメを撮影した熱赤外線写真ですが、わかりますか?
説明されてもわからないと思います(笑)。そもそもなんの写真なのかもわからないはず。
実はスマホで動画撮影しつつ、PTQ136でも撮影していました。ちょっとタイミングがズレてますが、奥にいるウミガメのヒレが水槽にあたり水面から出た瞬間が上の熱赤外線写真になります。
この様に上からウミガメが覗ける様なところでもサーマルカメラはほぼ無力です。なにせほとんどが水ですから。
もう一つ、例を挙げてみましょう。
川です。30cmほどの落差のあるところの高低差も全て「均一に見えている」のがわかりますか?
高さがなく、のぺーっとした映像にみえます。サーマルカメラを使って歩いてたら高さに気付かず落ちます(笑)。高いところと低いところとの水の温度差があれば別なんでしょうけどね。
もしかしたら滝の様な高さがあるところだと「上」と「下」で温度差が出て映像化できるのかもしれません。
※ちなみに自慢ですが、この川の水温の差をドローンとサーマルカメラで計測したものを最近論文化致しました(えへんえへん)。
海上での救助活動では有利
逆に水面に浮かぶ要救助者の場合は要救助者のところだけはっきりと浮かび上がるので重宝されるという利点があることも事実です。
サーマルカメラ共通の弱点2 温度差がないと映像化できない
温度差がないとほとんど見えない。人工物は温度差がでやすく、植物はでにくい
サーマルカメラは温度差を通じて映像にメリハリをつけるので、温度差がないと役にたちません。私達の眼は色・形・質感などで判断しますが、サーマルカメラは温度情報のみを映像化するので温度差がないといかに色や形が違おうと、材質が違おうと完全に無力です。
これはある程度空調の聞いた室内におかれた扇風機ですが、わかりますか?なんとなーく「扇風機・・・?」みたいな。付け根の部分が熱くなってるので反応してますが、それがなければ周りの物だとかなにもわからないと思います。
温度差がないとこんな風に見えるんです。もう一つ例を出します。
近所の公民館の入り口を深夜に撮影したものです。「公民館」とはっきり字が読めると思いますが、これは「屋根が金属」で「公民館の字はプラスチック」でできているので温度差ができて、その違いが映像化され認識できるということですね。
ふだん、温度差なんて意識しないのでPTQ136 Breachを使うことでかなり意識させられることが多々ありました。室内におかれた人形などはほとんど識別できません。周りの温度と変わらないので、壁などと同化してしまいます。
また、意外にも植物は温度差がでにくいということもわかりました。下の画像を見てみて下さい。
雨のあとなので特に条件が悪いのですが、それでも「ここまでわからんもんなん?」という印象になりませんか?雑草のところ真っ黒です。かろうじて右端の斜面部分は地面が露出していますし、奥は道路があるので区別できますが、それ以外はどうなってんの??という状態です。
他にも山の中で色々と試してみましたが、少なくとも「真夏の昼」はサーマルカメラはほとんど役に立ちませんでした。夜間になると、周囲の温度が冷えて温度差がでてくるのでなんとかわかりますが、それでも色々と「見分ける」というのは辛いなという印象。冬にも試してみます。
逆に、屋外の人工物は色々な素材があるのでかなりメリハリが効いてはっきりわかることが多いです。
例えばこれ。昼間にとったものですが、車の輪郭から後ろの家の窓枠まではっきり認識できます。人によっては車種まで特定できるぐらい鮮明です。人工物と植物はここまで違うものかと改めて思い知らされます。
映画プレデターはサーマルカメラの弱点をうまくついていた
映画「プレデター」でプレデターは熱で相手を見つけている、ということに気がついたダッチことシュワルツェネッガーが体に泥を塗りたくってプレデターからの発見を回避する、という有名なシーンがありますがこれはもう完全にサーマルカメラの弱点を突いたものです。
いかに性能が高いサーマルカメラであっても温度の差がなければ均一に見えてしまうわけです。
ちなみに、このPTQ136Breachを含めプレデターの「サーマルアイ」よりも高性能のサーマルカメラは普通に出てきています(笑)。
海外だとPTQ136 Breachの製品発表の際に「プレデターは徐々に利点を失いつつある」と書かれていました。
サーマルカメラ共通の弱点3 雨の日は役に立たなくなる
上記2点の弱点と原理を知っていれば当たり前といえば当たり前なんですが・・・思った以上に雨天時や雨があがった直後の野外はサーマルカメラは使い物になりません。
- 雨のせいで色々なものの温度が均一になる
- 水が赤外線を吸収するので映像化できない
この2つがセットになるのでかなりキツイです。温度差がない上に雨や濡れた表面が赤外線を吸収してしまうので映像にしても均一の映像になってしまい、本当になにを見ているのかわかりません。
台風の日に少し使ってみた
画像はないんですが、台風の日で雨がすごいときに少しPTQ136を持ち出し使ってみましたがやはりほぼ無力でした。何も見えません。
普段ならはっきり見える車も、濡れてしまってエンジン部が唯一少し映像化されているぐらいでした。たまたま歩いている人もいたんですが、びしょ濡れになってしまっていて顔のあたりが少し見えるかなーぐらいでした。
サーマルカメラを購入する際に気をつけること-スペック表の見方-
サーマルカメラは一般的ではないので、スペック表を見てもいまいちピンときません。現物を見る機会もほとんどないですしね。そこで今井がこの点は注意しろ!ということを解説を交えつつ書いたのでぜひ参考にしてみて下さい。
めっちゃ重要。これを考えずにサーマルカメラは買うな!
1.解像度
言わずもがなです。最低でも312×214はほしいところ。640×512が望ましいですが、これは専門家でも「まああんまかわんねーよ」という人もいるので値段と用途の兼ね合いですかね。
HD(1024×768)は完全別格なんですが、ハンディタイプで600万とかするので無視します(笑)。
2.フレームレート(Hz)
別の記事でも書いていますが、一般的な9Hzだと動画がカクカクするのでけっこうなストレスです。なので最低でも30Hzは狙っていきましょう。
3.温度分解能(mK)
聞き慣れないですよね。mKはmilliKelvinsの略で、数値が低いほど高性能なんです。Kelvinsは熱力学温度の単位ですが、ここでは無視します。FLIRシステムズによると
<40mK(産業用);<50mK(プロ仕様);<60mK(一般家庭用)
と明記されていますが、やっぱりわかりにくいですね。ちなみにFLIR PTQ136 Breachは50mKです。
簡単に言うとどれぐらいの細かさで温度が判読できるのか、ということです。
温度分解能が低く(悪い)、5℃刻みでしか判読できないサーマルカメラがあったとします。
そうなると「20℃、21℃、22℃、23℃、24℃」は全て同じ温度として認識するので映像としては全く同じ色で表示されます。
人の平熱は37℃ぐらいで42℃が限界だとされていますが、仮に5度刻みの温度分解能しかないサーマルカメラなら、平熱の人と熱を出してそうとうヤバい状態の人の区別ができない、ということになります。
もう少しイメージしやすいように肉眼では同じ様に見える温度の違う箱を、温度分解能の低いサーマルカメラと高いサーマルカメラではどう見えるのかをイラストにしてみました。
温度分解能の低いサーマルカメラでは全てオレンジ色として表示されて区別できない箱も、温度分解能の高いサーマルカメラなら色分けされるので全て区別ができます。
4.モニター解像度
こちらは私、ほとんど意識したことなかった項目ですがこれは検討した方が良い、と思うことがあったので紹介します。
PTQ136とほぼ同性能でモニター解像度の低いサーマルカメラを見せて貰う機会がありました。その時の感想としては見えねぇな・・・でした。
PTQ136は高解像度の1280×960で、最近のサーマルカメラはモニター解像度の高さを謳うものも多く、「そこまでか?」と思っていましたが今回のではっきりしました。モニター解像度も注目した方が良いです。
5.レンズ径
これはほんとわかりにくいんですが、レンズの口径で画角(FOV,Field Of View)が変わってきます。普通のカメラもそうなんですけど、サーマルカメラは特にそれが顕著なんじゃないでしょうか。
広くみたいのか、狭くみたいのか
これで選択が変わってきます。狭く見る(画角が狭い)ってなんの利点もない様に聞こえますが、画角が狭い分ズームがかかっている様に見えます。
つまり、遠方からでも詳細を確認できるということですね。オイルプラントの保守点検やガス漏れなどの検出に使われる場合、多くは近づくと危険なのでレンズ径が大きいものが使われます。
また、別の考え方で画角で考えるよりもどれぐらいの倍率があるのかで考える方がしっくりくる人もいるかもしれません。だいたい「何倍ぐらいのズームで見えてるの?」みたいな感じです。
私はドローン用のサーマルカメラも持っていて、640×512の「19mm」レンズですがこの場合大体2倍ほどのズームがかかっている様に見えます。混乱させるようですが、同じレンズ径でも解像度が違うと画角も変わるのでそこも注意が必要です。
6.温度表示があるのかどうか
これは私もうっかりしていたのですが、PTQ136には温度表示機能がありません。ミリタリーや警察、ハンターが犯人だったり動物を追う時のために作られているので「おっあの犯人は体温が38℃で微熱気味だな」なんてのは必要ありません。
単純に近場の温度分布を測りたいのなら別のモデルがいいでしょう。
そこそこ重要 余裕があれば検討してもいい
バッテリー
これは好みがわかれるところですが、できたら外部バッテリーとモバイルバッテリーの両方が使えるものがいいと思います。最新のFLIR製品はモバイルバッテリーが使えるようになってきているので、注目するといいかもしれません。
PTQ136 Breachは500円以上するリチウム電池一本を使い90分ほど駆動しますが、ものによってはリチウム電池6本使って4時間持つというものもあります。4時間で3,000円ですよ!?時給にすると750円です。
携帯性、予算などで判断するのが良いと思います。ちなみに内蔵式のバッテリーだと、バッテリー切れを起こしてしまったら現場ではどうしょうもなくなるので、内蔵式のバッテリーは避けられる傾向にあります。私も補給の効かない山に持っていくのなら電池式にします。
GPS機能があるかどうか
こちらも好みですが、私はもともと環境調査用に購入しているのでできたらGPS機能があればよかったと思っています。後からどこで撮ったかわかるので。
発展性があるかどうか
発展性というとわかりにくいですが、ゴーグル状にできるか、三脚に取付けられるかというのは場合によっては重要です。
PTQ136はゴーグル状にはできますが、三脚には取付けられません。自作するしかありません。
対してFLIRのハンディシリーズでは有名なSCOUTはゴーグル状にはできませんが、三脚には取付けられます。
このあたりは自分の用途との相談ですね。
こんな感じでしょうか。当然、高機能になればなるほど値段も上がっていくのでそこの落とし所を見つけるのに苦労します。
普通の電化製品じゃないからちょっとヤマダ電機で見てくるわ、ができません。かといって「失敗したけどいいか」と言えるほど安くない。というのもサーマルカメラが普及しない1つの要因ですね。
まとめ
ほとんど語られることのないPTQ136 Breach特有の苦手なこと、サーマルカメラに共通する苦手なことを状況別で紹介してきました。これで少しでもサーマルカメラが身近になればなぁと思います。
それぐらいサーマルカメラが好きなので(笑)。
とりあえず、PTQ136に関する長期レビューはこれで終わりですが今後もなにか研究や事業がでてこれば都度紹介させていただきたいと思います。